気まぐれの桜
「気まぐれの桜」創作童話カレンダー
/絵と文・北沢優子(ENEOSグローブ)
緑が原のその先の丘に、一本の桜の木がありました。
「桜の丘」と呼ぶ人もいるその丘の木ですが、
今年はいっこうに咲く気配がありません。
咲いたり咲かなかったりするその木は
「気まぐれの桜」とか「はずかしがりやの木」とか呼ばれているのです。
その丘にももちゃんとパパがやって来ました。
「いないなぁ、どうしよう」
「たしかにこっちの方に飛んで来たんだけどな」
2人はまいごのインコ、ピッピを探していたのでした。
「そうだ、歌を歌ってみたらどうだろう?いつもピッピと歌っていただろう?」
「えー、でも・・・」
ももちゃんは下を向きました。
この間、音楽の発表で、みんなの前で歌う時
きんちょうしてうまく声が出せなかったのを思い出したのです。
「ら~ら~ら~」パパが歌い出しました。
ちょっと音が外れていてもおかまいましです。
こんなことでピッピが見つかるのかなぁ。
ももちゃんが空を見上げると・・・
「あれ?花が」
さっきまで何も咲いていなかった気まぐれの桜の枝が
少しだけ花を付けているのを見つけました。
ももちゃんはひと息つくと、
「ランランラン♪」
小さな声で歌いました。
「あれ?花が増えていないか?」
パパもびっくりして声をあげました。
2人は顔を見合わせてうなづくと、
「ルーラ、ルーラ♪」と大きな声で歌いました。
すると
チー、ピピピピぴ♪
花に誘われた、小鳥たちがやって来ました。
ピルピルピル、ルールールー♪
「あっピッピだー!」
ピッピは小鳥たちと一緒に歌いながら、桜の花の間を飛び回った後
ゆっくりとももちゃんの頭にとまりました。
にぎやかな歌声がひびく中、
桜は次々と花を咲かせていき、すぐに満開になりました。
「わぁ、すごいわね!」
家の庭から桜の木を見ていたママも、
弟を連れてやって来ました。
桜の木はたくさんの花をつけた枝をさわさわとゆらし、
まるで笑っているようでした。
この日からこの丘の木は
「歌声の桜」と呼ばれているのです。
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